無影灯がカッコいい①

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異論は認めない

 

 

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©alpocotter

朽木 誠一郎(くちき せいいちろう)

 

医学生をしながらインターネットにコラムをかいています。いまのところ、小学館Menjoy!IRORIOJunkStageに所属。

 

赤ちゃんに注射するとき親を退室させるのは、医療者だけを赤ちゃんの敵にして、親が側にいるのに助けてくれないトラウマを防ぐためと聞いて感心。

 

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あのマッケ・ゲティンゲを追って

 

こんにちは、医者の卵です。

 

医学生なのでオペを手伝う。だが、医学生ごときに大したことはさせてもらえない。むしろ医学生に大したことをしてほしい患者などいない。

 

プロフェッショナルたちによる緊迫したオペのさなか、モラトリアムな医学生にだけ必然的な時間の余裕が生まれる。

 

僕は無影灯を見上げて、気がついた。

 

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無影灯、カッコいい


僕とあるがこれはウソだ。手術室でそうそう写真など撮れはしない。母校が受験生に向けたPR写真を加工したイメージ画像です。

 

とはいえ、こんな雰囲気のオペ中はじっさいとくにすることがない。

 

無影灯をくまなく眺めていて気がついたのだが、まず、メーカー名がカッコいい。僕の目を釘付けにしたのは『マッケ・ゲティンゲ(株)』だった。

 

マッケ・ゲティンゲ。マッケ・ゲティンゲである。正直、意味などはまったくわからないけど、何度でも口にしたい。マッケ・ゲティンゲ。

 

沿革

(ゲティンゲ社) 

1998年

6月

ゲティンゲ・サイエンティフィック(株)設立

2001年

6月

ハンセン・マッケ(株)との統合により、マッケ・ゲティンゲ(株)となる

2006年12月

マッケ・ゲティンゲ(株)からゲティンゲ・ジャパン(株)とマッケ・ジャパン(株)に分社化

現在は消滅


悲しい。解散したアイドルユニットの追っかけのような気持ちで、僕は『マッケ・ゲティンゲ』の消息を調べた。

 

どうやらこの『マッケ・ゲティンゲ』、無影灯など医療器具を製造・販売するマッケ社、医療施設の環境整備を担うゲティンゲ社に分割されたらしい。

 

いわゆる方向性の違いというものだろう。僕の興味はあくまで無影灯だから、推しメンはマッケ・ジャパンで決まりだ。

 

ちなみにマッケもゲティンゲも固有名詞なので、意訳すれば“タッキー&翼”である。そして、タッキー(マッケ)の無影灯もやはりカッコいい。

 

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従来の無影灯はこういうイメージだ(これはこれで十分カッコいい)けど

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最新型のLED無影灯はこう


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MAQUET(マッケ)社 『POWER LED 700』


これはもうアレだ、宇宙ステーションだ。外側の部分はぜったいに回るよね(回りません)。

 

ひとつひとつのLEDはコロニーで、居住空間であったり、野菜を栽培し家畜を飼育したりするのだ。違う、そんなことのためのLEDじゃない。

 

そもそも、無影灯とは無影性、つまり術野(手術範囲)に影を落とさないことを目的とした照明器具である。だって影があったら見えにくいでしょう。

 

影がなくなるのは、電球内や反射板に光を乱反射させる仕組みが施されているためであるが、よりわかりやすく説明すると、こう。


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一方向だけから光を当てると影ができるが

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あらゆる方向から光を当てれば打ち消し合い影はできない


 

しかし、光を当てればそこに熱が生まれる。明るくしたい術野には、じつは熱が集まりやすく、これは内臓を直接焦がすようなものだ。

 

そこで、患者の負担を緩和し、術部の乾燥を防ぐため、低発熱(低廃熱)の光が必要になる。これはまさに、LEDの特徴だ。

 

LEDでは、色温(色味)調節も可能になるため、手術を担当する医師の好みに合わせた色味を実現することもできる。すごいぞ、LED。

 

このような技術の革新によって、医療も刻一刻と変化している。そして、その新しい技術を、ちょっと変わった形で紹介する会社があった。

 

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それが株式会社セントラル・ユニの『Mashup Studio』


セントラル・ユニは、手術室の環境整備を中心に、LED無影灯など医療機器の開発・販売も手がける企業である。

 

創業は昭和26年で、2012年には60周年を迎えた。そんなアニバーサリーを機に設立されたのが、この『Mashup Studio(マッシュアップ スタジオ) 』だ。

 

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閑静な住宅街にある

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秘密の(じゃないけど)展示場


 

つまるところショールームなのだけれど、とてもユニークかつマニアックでありながら、なんだか親しみやすい、ちょっと不思議な異空間だった。

 

お目当てはLED無影灯のはずが、じっさいに伺ってみたら他にもカッコいい展示がたくさんあったので、まずはその様子を紹介したい。

 

もう、医療機器はだいたいカッコいい。

 

 

 

オペレーションルームをつろう

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略してオペつく


『Mashup Studio(以下MuS)』は東京都文京区の、湯島天満宮からほどちかくにある。各種イベントやセミナーも企画しており、要予約だが見学は自由だ。

 

外観は和カフェのようだが、内部では手術室のサイバーシミュレーションや医療施設のリアルな展示が行われるなど、ギャップがなんとも秘密基地っぽい。


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壁画のあるエントランスが目印

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ビルの4F・5Fにある


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医療機器メーカーというよりは、都会にあるFMの放送局みたい


写真左が今回の取材を担当してくださった、営業統括部の宮原さん。

 

内装をオシャレオシャレと絶賛していたら、「こういうのはだいたいのコンセプトを伝えるとデザイナーがササッとやってくれるんですよ」とおっしゃる。

 

思わぬところでコンセプチュアル・デザインの闇に触れてしまったが、どうやらホメられすぎてきまりがわるくなった末のリップサービスのようだ。

 

愛すべき大人だと僕の直感がささやいた瞬間である。

 

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自然にとお願いした写真

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企業紹介ビデオも手が込んでた


 

医療機器メーカーには、どちらかというとお堅いイメージがあった。それはたぶん、僕がしばしば目にする大学病院の出入り業者に、足で稼ぐタイプの実直な営業マンが多いからなのだと思う。

 

一方、MuSはいわば高級車のショールームだ。売り物の医療設備にプラスαの価値を求める顧客が、クリエイティブな時間を過ごせるような。そのあたりを狙ったものか、あちこちにちょこちょこ遊びがある。

 

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ライブラリースペースには

手術室の壁面モジュールシステムが利用されている


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ポンジュースが垣間見えるバーカウンターの冷蔵庫は

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ふだん輸血とか生理食塩水とかアルブミンのパックとかが入っているアレ


 

非日常的な専門性に惹かれるのか、あるいは無機質な金属やプラスチックが魅力なのか。インテリアとしても十分ハイセンスである。カッコいいぞ。

 

さて、MuSのメインコンテンツは、手術室のサイバーシミュレーションだ。手術設備の種類や位置などを、3Dシミュレーターにより原寸大で体感できる。

 

これにより、顧客は手術室の新設・改修の完成形を前もって知っておくことができるので、施行後の満足度が上がる。

 

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管理画面と連動してバーチャル空間がリアルタイムに変化していく。『シムシティ』みたいでちょっとわくわくしますよ。


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オペ室時計・無影灯・手術台がつぎつぎとプロジェクターに現れる(事情によりイラストで)


さっそうとシミュレーターを操作する宮原さんが、もはやカッコいい。とてもダンディ。これはもう、ムッシュ宮原だ。

 

また、手術室の色を変更することもできる。どうやら、手術室の色にもTPOや、流行があるらしい。


これはさいきん流行の白

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じつは多数派で無難なグリーン


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産婦人科で人気のピンク(安心するから)

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一面のブルー


 

余談だが、4つ目(一面のブルー)は、とある有名外科医が“深海(手術室)の中に降り注ぐ太陽(無影灯)の光”をイメージしたもの、らしい。

 

宮原さんには「ドクターの感性は独特なんですね」と言われた。たしかにそうかも知れない、僕は無影灯がカッコいいと思えばこそここにいるのだから。

 

そう、無影灯である。そもそも僕は無影灯を見に、そして写真を撮りに、なんなら触りにわざわざ上京したのである。というわけで、フロアを移動します。

 

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展示とムッシュのダンディーな尻を眺めつつ階段を上る

 

 

 

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